微笑まない

 最低だ、俺。

 目の前に居る俺の彼女は、不機嫌そうな顔をしている。手に持つカキ氷を彼女はじっと見つめているが、周りから出ているオーラで彼女が不機嫌なのはわかった。

 悪いのは俺だという事はわかっているけれど、どうしても俺はそれを認めたがらない。他人事のように言ってるが、一言で言えば俺が意地っ張りなことが悪いのだ。

「おい、こっち見ろよ」

「やだ」

 声が苛立っている。彼女はカキ氷のスプーンを手に持ち、イチゴのシロップがかかった氷を掬い口に入れた。一瞬、俺を見たがすぐに視線をそらした。やっぱり怒ってる。

「何であんたの顔なんて見なきゃいけないの」

「あのさ……そんなに怒るなよ」

「やだ」

 キレ方が子どもレベルだ。もうちょっと大人っぽいキレ方できないのかよ、と思ったけれど大人っぽいキレ方って何だろうと考えてしまった。いやいや、そう言う問題じゃない。

「そんなに怒るもんかよ」

「だって、あたしはメロンが食べたかったの!!」

 突然、彼女が怒鳴った。その叫び声を聞いた歩く人々が、ちらちらこちらを見ていたがすぐに歩き出した。祭ってやっぱりコレぐらい起きるもんだよな、なんて考えた。

「わかったから。メロンが食べたいのはわかったから」

「だって……メロンが好きなんだもん」

 どうして彼女と俺はこんなケンカをしたかと言うと、俺が自分のイチゴカキ氷と彼女のメロンカキ氷を買って持ってこようとしたら、人とぶつかり運悪く彼女のメロンカキ氷を落としてしまったのだ。

「バカ」

「は」

「メロン落すとかマジバカ」

「ってめ……!」

 高々メロンカキ氷でバカと言われたら誰だって腹が立つだろう。これは正等ギレだ。

「ふっざけんなバカ女! メロン一つでぐだぐだぐだぐだうっせーんだよ!!」

「はぁ?! あんたがメロン買ってきてくれるって言ったのに、落すから悪いんでしょ!?」

「好きで落としたんじゃねぇよ! お前、俺がぶつかってたの見ただろ!?」

「だからって自分のイチゴ落せばいいのに! あたしのメロン落す必要なんてないでしょ!」

「俺だってイチゴ食べたかったよ!」

「あたしだってメロン食べたい!」

 俺だって、と言いかけたところで俺の頭は冷えた。周りを見ると、俺たちを囲むように大勢の人がいる。もしかして、このケンカ見られてた?

「ちょっと聞いてんの?!」

 彼女はまだまだ腹の中で暴れる虫を抑えられないらしく、かかって来いと指を動かしている。

「あー、待て待て。休戦だ、休戦宣言するわ」

「何で」

「お前、とりあえずクールになってみようぜ」

 ってこの間友達から借りた漫画に似たような台詞があった。

「……あ」

 周りの人々がくすくす笑っているのに彼女もやっと恥かしさを覚えたらしく、俯いた。それから俺のすぐそばにより、小さく囁く。

「何でこんなに人集まってんのよ?!」

「あんだけメロンだイチゴだ騒いだら人だって集まるよな」

 俺はそう言って、俺たちを囲む人々に「どーも、お騒がせしてすみませーん」とか言ってぺこぺこ礼をした。どうか知り合い居ませんように、と思いながら礼をしまくった。人々はすぐにざわざわ言いながらどこかへ行った。よかった。

「もー…やだぁ」

 彼女は大きなため息をついて顔を両手で覆っている。「知り合いいたんだけどぉ…」と泣きそうな声で呟いた。自業自得だ。

「マジあんた最悪!」

「はいはい、もう人寄せはやめましょうねー」

 折角の祭りにケンカして、しかもそれで別れるとかなったらそれこそ最悪なことになる。俺がそんな事を考えていると、彼女がイチゴカキ氷のカップを俺に押し付けた。中身はまだ半分残っている。

「いらない」

「は?!」

「メロン買うわよ! 絶対メロン!!」

 彼女はそう言って、俺の腕を掴んだ。さっきまで最悪だのバカだの言ったくせに、腕を掴むってどうなのよ。そして、彼女の強引なエスコートのもと、俺たちは人ごみの中に入る。

 その時、彼女が笑っているのにふと気付いた。あれ、さっきまで不機嫌そうだったのに。

「…なんだかなあ」

 

 まるで氷のようで、まるでざわめきの中の呟きのようで

微笑まない君・・・まず、大人になってくれ。

 

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