人間爆弾
「あたし、嫌いなの。彼氏と彼女です、って感じに見られるの」
彼女に言われた冷たい一言。それは水となって、俺の火照っていた気持ちにぴしゃりとかかった。冷たい水がぽたぽたと心の中に落ちて、少しずつ俺も冷静さを取り戻した。
「……俺のこと、嫌いなのか?」
学校の、誰もいない旧校舎。俺と彼女は廊下で、向き合って立っていた。
「別に、あんたが嫌いってわけじゃない。でも、あたしは、あんたが望むような付き合いはできない」
「何で、だよ」
俺が望んだのはただ、彼女と一緒にいるだけ。帰りに一緒に歩くとか、学校で会ったら手を振るとか、そんなささやかなことでよかった。しかし、彼女はそれすらも拒んだ。
「あたしだって、あたしのキャラっていうのがあるのよ。あんたには、わかんないと思うけど」
「わかんねえよ」
言ったと同時に、彼女の肩を掴み、彼女の身体を壁に押し付けた。彼女はびく、と体を震わせた。
「なっ、何よ」
「……なんで、こんな我慢しないといけないんだよ」
「我慢、って」
我慢、って、何よ?
聞きたくなかった。だから口をふさいだ。単純な話だ。両手で彼女の肩を掴んで壁に押し付けているのだから、口をふさぐには口を使うのが一番効率がいいだろう。
「んっ」
初めて聞く彼女の高い声に、快感を覚え始めていた。
ああ、そうか、人は単純なんだ。
「んっ、ん……」
抵抗しようと力が入っていたはずの彼女の身体から少しずつ、力が抜けてゆく。肩を押さえなくても、彼女は壁に寄りかかっていた。そして、俺はゆっくりと彼女を解放した。
旧校舎の隅にあったのは、俺と彼女の呼吸音だけ。彼女は気付いたら腰が抜けたように壁に寄りかかって座っていたし、俺も彼女の向かい側に座って俯いていた。
「……バカ」
新しい音を発したのは、彼女だった。まだ荒い呼吸をして、少し掠れた声で俺に言ってきた。
「……ごめん」
当たり前の返答をしたつもりだった。きっと彼女は、こんなことを望んでいなかった。けれど、俺は、自分の気持ちを、抑えられなかった。
「バカ」
また言うのか、と俺が顔をあげた直後、身体が傾いた。どさ、と音がして、目の前に彼女が居た。
「何でもっと早く、教えてくれなかったのよ。こんなに、気持ちいい事」
その一言で、俺は彼女に押し倒されていることをようやく理解した。ああ、そうか、と納得した。
人間爆弾・・・俺と彼女の導火線は、もう、なくなっていた。