03

「リュウ、やっと来たのね!」

 リュウがショッピングモールに展開されている結界に近づくと、そこには何人もの魔導士や魔術士たちが結界破壊や客の転送を行っていた。その中にいたルミナにリュウは声をかけられた。

「ルミナ、お前も結界破壊か」

「まあね。手加減して破壊、っていうのも難しい話よね」

 肩を揉むように手を当てながらルミナは言う。彼女の魔術は一撃が非常に大きなダメージを与えるため、結界の一部のみ破壊、というのは調節が必要になるらしい。リュウはルミナの手に握られているハンマー型のロッドを見ながら苦笑いを浮かべた。

「それで、入るんでしょ? あの中に」

「ああ。状況はどうなってる?」

「ほとんど転送は終わっているけど、これから距離を離さないといけないからあと最低でも一時間弱はかかるわ。結界の中は魔力が使いにくい状況みたいね。通信は安定してできるけど、中から破壊が出来なかったのよ」

「なるほどな。わかった」

 話を聞いたリュウは、結界の開かれた部分に向かって跳躍した。

「リュウ! あんまり無理、しないでよ!」

 ルミナが叫ぶと、リュウは右手を上げて大きく振り、結界の中へと入っていった。

 

 ショッピングモールの中は薄暗かった。非常事態、ということで照明が全て落とされ、中の明かりは避難誘導用の緑のランプだけだった。魔力の消費を最低限にするために、リュウは店内を走っていた。普段ならにぎやかな場所が静かになる分だけ、不気味に思えた。

「この先か……」

 響くのは自分の走る音だけ。リュウが通路を曲がると、そこが広場だった。その中心にあるベンチに、人影が一つあった。呼吸を整え、リュウはゆっくりとその人影に近づく。

「お前が……爆弾か」

 近づきながら尋ねると、人影は小さく頷いた。リュウがその人物の前に立つと、一瞬、言葉が出なくなった。

 黒く長い髪をツインテールにし、フリルのついた白いシャツ、黒いカーディガン、左胸には黒い薔薇をモチーフにしたブローチ、黒地に白いフリルが多くついたスカート、黒のニーハイソックス。その姿は、まさに“人形”と表現するのがふさわしいように思えた。

「はい。あと、一時間二十二分十八秒後に爆発します」

 はっきりと答えるその少女こそが、この事件の犯人――の凶器。人と全く同じ姿をしているが、彼女は人ならざるモノ。その体内にはこのショッピングモールを吹き飛ばすほどの威力を持つ爆弾の魔術コードが入力されているのだ。

 しかし、まさか少女型のドール、それもここまで着飾らされたようなものとは思っていなかったリュウは少し口調を柔らかくして尋ねた。

「君の、契約者は?」

「その問いに答えることはできません」

 予想通りの返答をする少女に、リュウはロッドを向けた。しかし、少女は動じた様子を見せなかった。彼女は動じる、ということを知らないのだろう。

「君の中にある爆発の魔術コードを、強制的に解除させてもらう。その後、君には魔導管理局に来てもらう」

「……」

 少女は何も言わずにすっと立ち上がった。それは解除を行えと言っているのか、それともできるものならという挑発なのか、リュウにはわからなかった。しかし、自分が行わなければならないことをするだけだった。

 リュウは腰のポーチからカートリッジを取り出す。先端についている小さなボタンを押した瞬間、カートリッジの大きさがアルミ缶程度になった。それをロッドに挿入して、再び少女にロッドを向けた。

「魔術展開」

 言うと、リュウの足元に黒く光る魔法陣が現れた。少女は何も言わずにそれを見つめていた。

「暴れるなよ。女の子を傷つけるのは普通に嫌だからな」

 リュウの言葉を理解したのか、少女は無言でじっとリュウを見つめているだけだった。抵抗しないことに、疑問を抱きながらもリュウは少女にロッドを向けていた。

「魔術コード解析」

「拒否します」

 少女が言った瞬間、パン、と風船が割れるような、弾ける音がした。リュウが驚いたように目を見開くが、少女は表情を一つも変えていない。

「……なるほど。確かに、暴れはしなかったな」

「はい」

 苦笑いを浮かべるリュウは、少女の全身を改めて見直した。身長は自分よりかなり低く、百五十センチ程度だろうか。ツインテールの髪は肩より少し長い。腕は服を着ているとしても細い。そんな小柄なドールの中に、AAA+の魔導士の術をはじくほどの力があるとは、想定していなかった。

「君のマスターのパワーランクは、どれくらいか聞いてもいいか?」

「把握していません」

「へえ。じゃあ、君の知っているマスターの情報は?」

「その問いに答えることはできません」

「さすが」

 少女とのやりとりを終えた後、リュウは再びロッドを構える。先ほどまで入れていたカートリッジを取り外し、別のカートリッジを取り出す。

「二種コードでいけるかと思ったけどな……。まあ、いい。次は抵抗するなよ」

「拒否します」

「だろうな」

 リュウはカートリッジを入れ、再び「魔術展開」と唱えた。先ほどとは違う、細かい印が描かれている魔法陣が足元に現れる。

「魔術コード解析」

「拒否します」

 びり、と電気が流れるような音がして、リュウと少女の間に黒い閃光が走った。

「悪いが、さっきと同じと思うなよ。ちょっとばかり、本気出してみた」

「パワーランクを把握しました」

 少女はそう言ってリュウに向かって右手の手のひらをむけた。まさか、とリュウが大きく目を開く。

「魔術展開」

 少女の足元に、リュウと同じような魔法陣が現れた。が、それはすぐに消える。

「何?」

 少女の体が、傾く。リュウははっと目を開いて、少女に向かって走り出した。そしてリュウは、倒れた少女の体を受け止めた。リュウの腕に受け止められた少女の体は、やけに軽かった。

「おい?! どうした!」

「契約……、……ました」

「え?」

 一瞬聞こえた言葉に、リュウは嫌な予感を覚えていた。そんなことがあるか、と思い、聞き返す。少女は少し顔をあげ、リュウの方を向いてはっきりと言った。

「契約が、解除されました」

 

 

 

 

 

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