File 01:死神は妖精と巡り会う
01
あたりは、まだ朝日が昇っていないようで、暗かった。
目が覚めたリュウは、適当に手を伸ばし目覚し時計を掴んだ。時計のライトをつけると、液晶画面に『6:30』という文字が浮かび上がった。まだ六時か……と小さく呟いて時計を置き、リュウは再び眠りの世界に浸ろうと思った。
ピー、ピー、ピー、ピー、ピピピ、ピピピ、ピピピ、ピピピピピピピピピピ……
「っ、くっそ……」
そう言ってリュウは起き上がり、ベッドのそばにあるテーブルに手を伸ばし、携帯電話を掴んだ。電子音を鳴らしながらぶるぶると震えている携帯電話の液晶画面をしばらくぼんやりと見ていたが、諦めたかのように小さくため息を吐いて、リュウは通話ボタンを押した。
「はい」
[おう、リュウか。起きてるな]
「……用件は手短に言え」
電話の向こうの声を聞いて、リュウは気だるそうな声で言うと、立ち上がって部屋の電気をつけた。
[強力な魔力反応を探知した。パワーレベルはA、カラーコードはブラック。朝早くから申し訳ないが――]
「申し訳ないと思ってたら俺に電話なんかしないだろ」
テレビをつけて、電話の相手に文句を言う。言いながらも、相手がにやりと笑っている姿を想像して、無性に腹が立った。
[じゃ、七時にブリッジに来い。来れるな? どうせそんなに洒落込んで来ないだろ?]
「俺が女だったらどうするんだよ」
[一時間待ってやる。けど、野郎には三十分で上等だ]
ぶちっ、という低い音を立てて、電話は切れた。リュウはしばらく電話を見つめていたが、小さくため息を吐いて、電話を机の上に置いた。それから、テーブルの上にあったネックレスを掴み、首にかけた。
「ったく、ふざけやがって」
冷蔵庫を開き、中身を見る。しかし、時間を考えると冷蔵庫のもので何か作れる余裕がないことがわかった。リュウは再びため息を吐いた。
「朝飯も作れねえじゃねぇか……」
小さく愚痴った後、壁にかけていた黒いコートを羽織り、部屋を出た。
三十分後。
「おはよう、リュウ」
「デュオ、あとで一発殴らせろよ」
デュオの挨拶に対し、リュウは引きつった笑みで暴言を返した。一瞬流れた不穏な空気に、その場にいた人々は緊張を隠せなかった。
「リュウ、はいこれ、今までの状況まとめた書類ね」
そのとき、デュオとリュウの間に入ってきたミリーネによって、その空気はすぐに消えた。ミリーネは半分強引にリュウに書類を渡すと、さっさと自分の持ち場についた。
「すぐ目を通しなさい。まあ、今から説明あるだろうけど」
「お、おう……」
「デュオもさっさと説明しなさい!」
「あ、はい」
ミリーネに言われると、リュウもデュオも何も言えない。お互い、改めるように咳払いをした。
「状況説明、な。大体のことはそれに書いてるから今から軽く目を通せ。簡単に言うと魔獣になりかけのやつが、魔獣になる前のひと暴れをしようか、ってところだな」
「わー、すっげぇわかりやすい」
書類をぱらぱらと見ながらデュオの説明を聞いたリュウが棒読みがちで感想を述べる。しかし、書類に書かれていることは確かにデュオが言っていることそのままなのである。
「それで?」
「対象の捕獲。困難と判断された場合は抹殺。これが魔法使いの犯行である場合は、その犯人の確保。以上」
「これを一人でさせるなんて鬼のような上司だな、お前は」
「できないやつには頼まないさ。そうだろう、AAA+の魔導士さんよ」
にやり、と笑いながらデュオが言う。リュウは、表情を引きつらせた。
時刻は午前九時を過ぎたところだった。
「ご苦労だったなあ、リュウ」
満面の笑みを浮かべているデュオに対し、リュウはやる気のない表情をしていた。それは疲れから、というよりも腹の虫の居所が悪いから、と言う様子であった。むっすりとしているその表情は、どこか幼い子どもを連想させるようなものだった。
「いやあ、お前がいなければこの短時間で済む一件じゃなかったよ。さすがだな、AAA+」
「褒めてくれてどうも。ついでだ、一発殴らせろ」
「まあまあ、そう言うなって。ほら、今から朝飯だろ? おごってやるよ」
「飯はいらん。俺は帰る」
「あ、じゃあ朝飯作ってくれ」
デュオが言いかけたとき、リュウの裏拳がデュオの顔面に入った。苛立たしげに、リュウは早足でブリッジを出た。デュオは顔を痛そうに両手で押さえており、その様子をミリーネが呆れたように見ていた。
一方、部屋に戻ったリュウは、コートを投げ捨てるように脱ぎ、そのままベッドに倒れこんだ。せめて朝飯ぐらい作らせろ……と思いながら、リュウは目を閉じる。そのまま、意識は闇の中にフェードアウトした。