ささやかな、休息
とある日、ハーフェンのとある呪物屋。
「ししょ……あ」
シュネイがしまった、と思った時には扉は開かれていた。あれほど師匠であるヴァイに「扉を開ける前にはノックをしろ」と言われていたにも関わらず、勢いで扉で開けてしまった。
「す、すみません師匠! えっと、あの……」
扉の向こうにいたヴァイは、ソファの背もたれにぐったりと身を任せている姿だった。
「……師匠?」
返事は、なかった。一瞬だけ不安がよぎったシュネイだったが、呼吸をしていることを示すように肩が上下しているのを見て、ほっと胸をなでおろした。それから、足音をなるべく立てないように、シュネイは部屋に入る。
しっかりと閉ざされた目、膝の上には読みかけなのか、開かれたままの本。普段ならば絶対には見せないような姿のヴァイを見て、シュネイは小さく首をかしげた。
「寝てる……のかな」
立ったままヴァイを見下ろすのもどことなく気まずく感じたシュネイは、とりあえずヴァイの隣に座ることにした。それから、視線をヴァイの膝の上に置かれている本に向けた。魔術について書かれている本なのだろうか。字が細々とページ全体に書かれており、シュネイが目を凝らさないと読めないようなものだった。内容に関しては、ヴァイが読むだけあって、一般の書店で売られているようなものと比べ物にならないほど高度なものである。
「レーヴェさんなら、途中で読むのやめちゃいそう……」
むしろ、本をそのまま捨ててしまうのではないか。そんなことをしたらきっと師匠は怒るんだろうなあ、などと考えていたら、楽しくなってきて、口元に笑みが浮かんだ。
「……師匠」
シュネイは小さな声でヴァイを呼ぶ。しかし、熟睡しているヴァイには、その声は届いていないらしく、規則的に呼吸をするだけだった。よっぽど疲れているのだろうか、と思いながらシュネイはヴァイの顔を見る。銀色の髪が、日の光を浴びて、きらきらと輝く。白い肌も、まるで輝いているように見えた。単純に、シュネイはその姿が美しいと、思った。
眠っているヴァイは、一体どんな夢を見ているのだろうか。深く閉ざされた瞼の奥の、紫色のあの瞳には、何が映っているのだろうか。
そんなことを考えても、自分に解るものではない。そう思っていながらも、シュネイはヴァイの身体にゆっくりと身を寄せた。白い肌から伝わるのは、間違いなく人のぬくもり。わずかに聞こえてくる鼓動に、シュネイはどこか、安心感を覚えていた。
「兄さん、そろそろご飯よー」
こうやって呼びかけないと、ご飯を忘れて本に没頭するんだから。
そんなことを思いながら、メイアはヴァイの部屋に向かって声をかける。しかし、部屋から反応はなく、こちらに来る様子もない。それに、シュネイの姿も先ほどから見当たらない。何かあったのだろうか、と、メイアは少しだけ心配になりながら、部屋に向かう。
「兄さん、何かあった……あ」
部屋に入ってすぐ目に入ったのは、ソファで眠っているヴァイと、ヴァイに寄り掛かって眠っているシュネイだった。二人とも、ほぼ同じ調子で呼吸をしていて、その姿を見てメイアは小さく吹き出した。
「もう、こんなところで寝たら風邪ひくわよ」
そう言ってメイアは、部屋のベッドの毛布を二人の身体に静かにかける。二人揃って寝ている姿を見て、メイアは小さく笑う。
「これじゃ、私がお姉ちゃんみたいじゃない」
文句を言っているはずなのに、その声色は楽しそうなもの。
「ご飯出来たら、また呼びに来るからね」
メイアはにこりと微笑み、食事の準備をしに部屋を出た。部屋の中には、二人の規則的な寝息だけが、響いていた。
:あとがき: 氷蒼シキさんへのお誕生日プレゼントとして捧げさせていただいた作品です! 勝手にちゃっかり二次創作させていただいています……! 図々しい!!(絶叫) TESTAMENTの中ではヴァイさんとシュネイちゃんの師弟コンビがほのぼのしている姿が好きなので、自分の好きな要素を詰め込んで書かせていただきました! それにしたって…ヴァイさんがしゃべってないじゃないか……! でも寝ているときはちょっと無防備なヴァイさん、というのが好きなのでつい寝かせてしまいました。全国のヴァイさんファンの皆さん申し訳ありません!! あと二人のお姉ちゃんぽくなっているメイアちゃん、というシチュエーションも好きです。メイアちゃんかわいいよメイアちゃん!! シキさん、二次創作させていただきありがとうございました! そして、お誕生日、おめでとうございました!! |